柔らかな頬 下 (桐野夏生)

上巻でカスミの生活環境や高校生の頃からの経緯などが描かれて…いよいよ下巻ではカスミが娘を捜す行動に出る契機になる出来事があります。

カスミはひとりで北海道に向かいます。 北海道では元刑事の内海と出会い、内海と行動を共にすることにします。 2人は娘の手がかりを求め…あちこちへと足を運びます。

娘が行方不明になった場所、石山の別荘であった場所に向かってみると…以前とは様子が変わっていました。 管理人なども当時思っていたのと異なる印象です。 それもそうです。 当時はお客さんですが、今回はむしろ招かざる客といった感じなのですから…。

カスミを突き動かしている動機は何か…というところが…私には気になりました。 心の底に強い動機がある場合に人間が何か行動を起こすというのは…こういうことなんだな…と感じました。

いつも思うのですが…桐野夏生さんは会話のやり取りで人間の心の奥にある動きや…、生活のちょっとした情景を描くことでその人がどのような生活をしているか…というようなことを文章にするのが上手です。 

この本…何回も読んでますが…毎回とても楽しめています。

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桐野夏生_柔らかな頬(下)

北海道では、かつて娘が行方不明になった別荘の近くで、当時カスミが思いを寄せていた石山と再会します。 石山の別荘が北海道にあったから、石山の家族と一緒に自分の家族も旅行に来て娘が行方不明になったのです。

石山と会うときのシーン…、好きです。 外面上は大きく変化のある石山ですが…、中身は実は変わっていない…というのが伝わってきます。

石山という男は我が儘で不遜に見える部分があり…周囲の人間にとってはいろいろと面倒な部分もあります。 ですが…人間としてこういう風に生きられたらなぁ…という憧れの部分を持っているんですよ。

そうですねぇ…例えば、さすらいのひとり旅に憧れる男性が多いような願望というのでしょうか。

エンディングが素晴らしい。

エンディングに至るまでには、娘が行方不明になるパターンがいろいろ描かれています。 そのどのパターンでストーリーが展開されていても面白い本になっていただろうな…と、私は思ってます。

そのアイデアを惜しみなく出し…最後には余韻が残り…しかも心の中に黒い不安がモヤッと漂うような感じでした。

とてもお勧めの1冊です。

(この本最初は借りて、その後には買って…譲って…買って…売って…買いました…)

 

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柔らかな頬 上 (桐野夏生)

この本で桐野夏生さんにハマりました。

最初は図書館で借りてきて読みました。 面白い!と…その図書館に置いてある桐野夏生さんの本を全部読んで…その後でもう一度読みたくなって買いました。

いやぁ…この本…衝撃的に面白いです。

上巻では主人公のカスミが娘を失うまでの課程やその後の出来事が描かれています。 読んでいるうちに、なぜ北海道に旅行に行ったのか…といったことなど主人公の心の動きと性格について次第に馴染み…まるでカスミを知人のような感じになってしまいました。

北海道の田舎の小さな田舎町から都会に出ることの不安…、都会に出た後の生活の困難さ…、東京に出てきてからの夢と現実のギャップ…といったことを残酷なほどに飾ることなく淡々とカスミの目線で物語が綴られています。 私は東京出身なので…なるほど…と思うことしきりでした。

小さな印刷工場の経営者の妻としての苦労や鬱屈というものが、普段の生活以外での楽しみを求める様子や心情の変化といったことも納得出来て違和感が無かったです。 

過去の出来事を回想するときには、人によって記憶している言葉のトーンや会話の内容にズレが生じているところもリアルな感じで好きです。

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桐野夏生_柔らかな頬(上)

別に信心する気もないし…、宗教に関心がある訳でもないのに宗教に徐々に引き込まれていく様子も書かれています。 なるほどね…だから…こんなにも多くの人が実際に宗教に引き込まれていくんだな…ということも私にとっては新鮮でした。

この上巻ではカスミの生き甲斐の変遷についてが描かれてます。 そうだよなぁ…人間の生き甲斐って、その時の環境や出来事で変わっていくんだよなぁ…ということをつくづくと感じました。

あと…執着というのはそのまま続けていると生活の一部になってしまうんだな…と…。

時間に余裕のあるときに読み始めることをお勧めします。 だって、途中で読むのをやめることが出来なくなってしまうからです。

(実はこの本…3回買ってます…)

 

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アンボス・ムンドス (桐野夏生)

7つの短編が1冊にまとめられています。

桐野夏生_アンボスムンドスアンボス・ムンドス ーふたつの世界ー とサブタイトルが付いている本で中にはそれぞれの繋がりが全くない独立した短編7編が納められていました。 タイトルにするだけあって、アンボス・ムンドスという短編の印象が一番強く残っています。 最後に納められていたということだけでなく、内容的にも毒が特殊な毒ではなく、普遍的に多くの人がもっているのではないかと思わされる部分が、強く記憶に残る所以なのかな…なんて思いました。 文庫本で50ページ程度の作品ですが破壊力があります。

小学生の先生が、不倫をしている相手と旅行に出かけて夢のような時間を過ごして日本に帰ってきたところから地獄が始まりました。 教え子の1人が死亡したのです。 しかも…事故のようです。

子供が死んだそのタイミングに日本に居なかった、しかも不倫の旅行だからと不在にしていた2人へと世の中は牙をむきます。 でも…これは筋違いですよね。 2人が日本に居たとしても事故は防止できなかったし、事故での生徒の死亡も防ぐことは出来なかったと思うんです。

このように明らかに筋違いなことが普通に行われているこの日本の社会で敵意を向けられる存在になったときの救いのなさが怖いです。

話しはそれに留まらず更に悪意のうごめきがあり、その悪意は今も消えていないというところで集結するのです。 この落ち着きのなさに心を大きく揺さぶられてしまうのでしょう。

オトナ向けの人間の毒を上手く表現している本だと思います。 お勧めです。

(2010年読了)

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東京島 (桐野夏生)

新刊で出てすぐに単行本で購入して読みました。

桐野夏生さんは好きな作家なので新しい本が出たら気になります。

桐野夏生_東京島

ある孤島に遭難してしまった人達の生活の様子やそれぞれの人間関係の変化が描かれています。

が…これまでの村野ミロが出てきて活躍するストーリー群の数々や映画にもなった「OUT」とついつい比較してしまいます。

 

面白いのだけど…桐野夏生さんに期待していたドキドキするような感じがあまり感じられませんでした。

ストーリーにはエロスやグロテスクな部分、つまり人間が理性で隠している部分が露わになってくるとどんな様子になるのか…ということが丁寧に描かれているので、これまでの桐野夏生さんの書いてきた作品とそんなに描いていることが大きく違っている訳ではないです。

 

σ(^^)にとってはそれ程エキサイティングな感じでもなかったので、1回読んだらそのまま古書店に持って行ってしまいました。

 

ちなみに映画化されています。

東京島

本を読んでも手元に置いていないぐらいだったので映画館に観に行っていません。 映画は面白いのかな?

でも…本の内容がきちんと映像化するのは難しいと思うんだけどね。 だって…映倫で引っ掛かってしまって公開出来ないことになってしまいそうに思うんですよ…。

(2008年:読了…多分)
(発行日が2008年5月1日になっていたので…)

東京島 @アマゾン

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